

生地バンチを開くと、Super120’s、Super150’sといった数字が並んでいます。
数字が大きい方が上質で、より良い生地なのではないか。そう感じるのは、自然なことかもしれません。
しかし、Superの数字が示しているのは、生地全体の優劣ではありません。
まずは、この数字が何を意味しているのかから整理してみましょう。

Super表示とは、糸そのものの太さではなく、ウールの原料である羊毛繊維一本一本の細さを示す指標です。
参考書籍では、次の数値を基準として示しています。
| Super表示 | 原毛の細さ |
|---|---|
| Super100’s | 18.5μm |
| Super110’s | 18.0μm |
| Super120’s | 17.5μm |
| Super130’s | 17.0μm |
| Super150’s | 16.0μm |
1μm(ミクロン)は0.001mmです。
つまり、Superの数字が大きくなるほど、基準となる羊毛繊維は細くなっていきます。
ただし、Super120’s=17.5μmという数字を、単純に「17.5μmを超えてはいけない厳密な上限値」と考えるのは適切ではありません。
今回確認した参考書籍では、一定の範囲における平均的な繊度の指標として説明されており、一般書籍から具体的な許容差の数値までは確認できませんでした。
大切なのは、数字そのものを暗記することよりも、Super表示は何を測っている数字なのかを理解しておくことです。
生地の世界には、もう一つ数字で表されるものがあります。
「2/80」「2/100」といった糸番手です。
Super表示と糸番手は、似ているようでまったく別のものです。
Super表示が示すのは、原毛・羊毛繊維の細さ。
一方、糸番手が示すのは、原毛を紡いだ後の糸の太さです。
この二つを分けて考えるだけでも、生地を見るときの理解はかなり深まります。

参考書籍では、原毛が細くなることで、柔らかさ、滑らかさ、しなやかさ、美しい光沢やドレープなどにつながりやすいことが示されています。
高いSuperの生地に触れたときに感じる、繊細でなめらかな風合いは、こうした原毛の細さと無関係ではありません。
一方で、原毛そのものは細くなるほど繊細になる傾向があります。
ただし、「Superの数字が大きいほど、必ず弱い」と単純に考えることもできません。
スーツ生地の性格は、原毛の細さだけではなく、糸の設計、撚り、織り方、密度、目付、仕上げなど、複数の要素によって決まるからです。
Super表示は、生地を理解するための重要な指標ではありますが、その一つにすぎません。
ここが、Super表示を理解するうえで最も大切なところです。
原毛の細さという一点だけを見れば、Super150’sの方がSuper120’sより細い。
しかし、それはそのまま、Super150’sの方がSuper120’sより「良い生地」であるという意味にはなりません。
生地を見るときには、原毛の細さだけでなく、繊維の長さや白度、糸の設計、撚り、織り、密度、目付、仕上げ、そして実際に触れたときの風合いなどを総合的に考える必要があります。
つまり、Superの数字は、生地の一つの特徴を示しているのであって、生地全体の点数表ではありません。
Super150’sには、細い原毛ならではの魅力があります。
Super120’sにも、その生地の設計や用途によって生まれる魅力があります。
大切なのは、「どちらの数字が上か」ではなく、「どちらが自分の用途に合っているか」という視点です。
高いSuperの生地ほど、原毛そのものは繊細になる傾向があります。
しかし、それだけで生地全体の耐久性を決めることはできません。
糸の撚りを工夫したり、織りの密度や目付を調整したりすることで、生地としての性格は変わります。
そのため、数字だけを見て、「この生地は強い」「この生地は弱い」と判断するのは早計です。
スーツ生地は、原毛から糸になり、さらに織られ、仕上げられて、初めて一枚の生地になります。
Super表示だけでは見えない部分に、生地の個性があります。
ビジネス用途に適したSuper値については、参考書籍や専門家によって見解が異なります。
仕事用ならSuper100’s前後を目安とする資料もあれば、Super120’s前後を日常着として評価する専門家もいます。
つまり、「仕事用ならSuper120’sが正解」という世界共通のルールがあるわけではありません。
毎日のように着るのか。
車移動が中心なのか。
電車移動が多いのか。
どの季節に着るのか。
どんな場面で袖を通すのか。
そうした条件によって、適した生地は変わってきます。
生地を選ぶときには、数字だけを見るのではなく、その一着をどのように使うのかまで考えることが大切です。

生地を選ぶ時間は、本来、数字だけを比較する時間ではありません。
手で触れたときの感触。
ハリやしなやかさ。
目付による重みや軽さ。
織りの表情。
色や柄。
そして、その一着をどんな場面で着るのか。
そうした要素を一つずつ確かめながら、自分に合う生地を探していく時間です。
Super表示を知ることは、生地を理解するための大切な入口になります。
しかし、その数字だけがすべてを決めるわけではありません。
良い生地とは、数字が一番大きな生地ではなく、その人の時間に一番よく馴染む生地なのかもしれません。
数字を知ることは大切です。
そして、数字に支配されないこともまた、装いの知性だと思います。