

冬になると、店頭でよく見かける生地があります。フランネルです。
「暖かい生地」という認識を持つ人は多いでしょう。しかし、一般的なスーツ生地と何が違うのか、なぜあの独特な柔らかい表情になるのかまでは、あまり知られていません。
フランネルは、ただ暖かい生地ではありません。光沢を抑え、素材そのものの表情を楽しむ、大人の秋冬服地です。
フランネルとは、ウールなどの糸を平織り、あるいは綾織りにしたあと、軽く縮絨(しゅくじゅう)を施し、表面を起毛させた毛織物の総称です。
縮絨とは、織り上がった生地に水分・熱・圧力を加えながら組織を縮ませ、繊維を絡み合わせていく工程です。さらに表面を起毛させることで、フランネル特有の柔らかな毛羽が生まれます。
日本では「フラノ」と呼ばれることもあります。本来は紡毛糸(ウーレン)を使ったものが中心ですが、現在では梳毛糸(ウーステッド)を用いたフランネルも存在します。
柔らかな毛羽、霜降りのような表情、そして光沢を抑えたマットな質感。この独特の素材感こそ、フランネルの大きな魅力です。

理由のひとつは、羊毛繊維が持つクリンプと呼ばれる自然な縮れにあります。そこに縮絨と起毛が加わることで、生地の内部に空気を抱え込みやすくなり、保温性につながります。
ただ、フランネルの魅力を機能だけで語ってしまうのは少し惜しい。
毛羽立った表面には、見た目にも秋冬らしい温かさがあります。触れる前から、目で感じる暖かさがある。それもフランネルという生地の魅力です。
フランネルには、大きく分けて紡毛フランネルと梳毛フランネルがあります。どちらが上質ということではなく、それぞれに異なる表情があります。
太く短い繊維を、ふくらみを持たせながら紡いだ紡毛糸を使います。膨らみがあり、起毛感も強く、柔らかく素朴な表情が特徴です。
伝統的なスーツやジャケット、冬用のトラウザーズなどに使われています。
長く均一な繊維を引き揃えた梳毛糸を使い、織ったあとにミルド加工を施します。
紡毛フランネルと比べると比較的薄手で滑らか。織り目も残りやすく、軽快で都会的な表情があります。そのため、ビジネススーツやドレス感のあるトラウザーズにも使われます。
なお、梳毛フランネルはサキソニーやミルドサージなどと性格が近く、その境界が明確ではない場合もあります。
フランネルは、ビジネススーツにも使われる生地です。
チャコールグレーやダークネイビーの無地、チョークストライプ、控えめなウインドウペーンなどは、秋冬のビジネススタイルにも取り入れられています。
特に梳毛フランネルは、比較的滑らかで軽快な表情を持つため、都会的なスーツにも合わせやすい素材です。
ただし、業種や職場、着用する場面によって求められるドレスコードは異なります。色柄や生地の表情まで含めて選ぶことが大切です。
フランネルの魅力は、スーツだけに限りません。
グレーのフランネルトラウザーズは、ネイビージャケットやツイードジャケット、ニットなどと組み合わせるクラシックな選択肢のひとつです。
上下を揃えたスーツとはまた違う、秋冬らしい素材の組み合わせを楽しめます。
しっかりとしたフランネルには、ハリとコシがあります。自重によるドレープが出やすく、胸元の立体的なフォルムや、パンツの美しいクリースを作るうえでも魅力のある素材です。
一方で、すべてのフランネルが同じ性格を持つわけではありません。
比較的軽量な220〜300g/m前後のものから、400g/mを超える重厚なものまで幅があり、紡毛か梳毛かによっても表情は変わります。
軽いものには軽快さがあり、重いものには重厚なドレープがある。同じ「フランネル」という名前の中にも、さまざまな個性があります。
フランネル特有の毛羽や柔らかな表情を楽しむためにも、着用後のブラッシングや休ませる時間を意識したいところです。

光沢のある滑らかな生地には、もちろんその美しさがあります。
一方、フランネルには毛羽があり、柔らかさがあり、マットな質感があります。輪郭は少し曖昧で、色には静かな深みがあります。
若く、細く、シャープに見せることだけが、格好良さではありません。
年齢を重ねるほど、少しの柔らかさや余裕が、その人の魅力として映ることがあります。
冬だから、暖かい生地を選ぶ。それもひとつの理由です。
けれど、「この季節だから、この柔らかな表情を楽しみたい」と思えたなら、生地選びは機能や数字だけの話ではなくなります。
その素材が、自分にどんな空気を与えてくれるのか。
そんな視点で服を選ぶことも、大人の装いの楽しみ方のひとつなのだと思います。