

高いスーツを買った。生地も仕立ても、悪くない。
それでも鏡の前に立つと、どこかしっくりこない。
その違和感は、価格や生地とは別のところから生まれているのかもしれません。
スーツ姿の見え方を考えるうえで大切なのは、服そのものの価格だけではなく、シルエット、コーディネート、コンディションです。
まず、高価なスーツそのものを否定する話ではありません。
高価格帯の生地には、光沢やしなやかさ、肌触りなどに魅力を持つものがあります。丁寧な仕立てにも、それだけの手間と価値があります。
しかし、価格だけでは決まらないものがあります。
高い服と、似合う服は違う。
大切なのは、良い素材や仕立てが、その人の装いとしてきちんと活かされているかどうかです。

スーツが大きすぎれば、生地が余り、身体が服の中で泳いで見えます。
反対に小さすぎれば、ボタンの周辺に引きつれが生まれたり、背中がつっぱったり、パンツのポケットが開いたりすることがあります。
肩が合っていなければ、肩先や首まわりに不自然なシワや型崩れが生じることもあります。
共通しているのは、服が本来持っている美しい線を十分に活かせていないことです。
そして、「細い=サイズが合っている」ではありません。
身体に密着させるほど良いわけでもなく、その人の身体のラインや動きに応じた自然なゆとりが必要です。
これはオーダースーツでも同じです。身体に合わせやすいからこそ、単純に細くするのではなく、その人にとって自然なバランスを考えることが大切になります。
服に着られるのか。服を着こなすのか。
その違いは、まずシルエットに現れます。
スーツは、一着だけで装いが完成するものではありません。
シャツ、ネクタイ、靴、ベルト、靴下、ポケットチーフ。
それぞれが全身の中でどう調和しているかによって、見え方は変わります。
胸元では、シャツの襟、ネクタイ、ジャケットのラペル。足元では、靴や靴下、革小物。
色を使いすぎたり、強い柄同士を重ねたりすれば、視覚的にまとまりにくくなります。素材感を揃えることも、全体の調和につながります。
一つひとつが高価であることより、それぞれが自然につながっていること。
高価なものを足すより、違和感をひとつ減らす。
それも、大人の装いを整える一つの考え方です。

どれほど良いスーツでも、シワや汚れが目立っていれば、その魅力を十分に伝えることはできません。
それは靴も同じです。
服は、何を持っているかだけではなく、どう扱っているかも外見に現れます。
良いものを選ぶこと。
そして、選んだものと丁寧に付き合うこと。
その両方があって、装いは少しずつ整っていきます。
細すぎるシルエット。派手な色や柄。小物の足しすぎ。
何かを加えれば加えるほど、格好良くなるとは限りません。
服装に関する資料には、身だしなみをシンプリシティ――簡素さ、控えめさと結びつける考え方があります。
服ばかりが目立ってしまえば、着ている本人の存在が薄れてしまうこともある。
簡素であること。控えめであること。そして、全体が調和していること。
大人の装いには、「足す」だけではなく「引く」という考え方も必要なのだと思います。
さらに、服の外側にもスーツ姿を左右するものがあります。
姿勢や立ち居振る舞い。そして清潔感。
前かがみの姿勢はスーツの背中の見え方にも影響します。襟元や髭、爪、靴などの状態も、装い全体の印象につながります。
これらは、高価なスーツを買えば自動的についてくるものではありません。
価格は、装いを構成する一つの要素です。完成そのものではありません。

ここからは、DEFFERTの考え方です。
高い服を身につけることと、その服を自分のものとして着こなすことは、別のことだと考えています。
その人の身体。
仕事。
立場。
着る場面。
そして、好み。
それらを見ながら、一着だけではなく、装い全体を整えていく。
オーダーの価値は、単に選べる生地や仕様が多いことではありません。
その人に何が合うのかを、対話を重ねながら一緒に見つけていくことにもあると、DEFFERTは考えています。
スーツだけを見るのではなく、その人を見る。
良い服は、良い装いの入口です。
その先にあるのは、その服と、その人との関係なのだと思います。